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 インターナショナルであろうとすれば,ナショナルな面,知識を身につけていなければならない。最近こうした認識が一般的になりつつある。音楽の世界でもそうである。

 先にこの欄で紹介した平凡社刊の『音楽大事典全六巻』。この本の編集態度にもそうした面が見られたように想う。これまで,音楽事典といえば,西洋のそれに限られていたし,読者もそれを当然のこととして受けとめていた。最近は,すこし変わってきたように想う。
 このような動向を反映するように,昨年やっと本格的な日本音楽専門の事典が出版された。『邦楽百科辞典 雅楽から民謡まで』(昭和59年11月1日 音楽之友社刊 5000円)がそれである。
 監修者の吉川英史氏によれば,実はこの本,昭和43年頃に作成の話があって,その後紆余曲折,十六年という長きを経て,やっと上梓したのだという。
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 一般に邦楽といえば,雅楽や能楽,仏教音楽や民俗音楽は除外される。しかし,この本では,もっと広義に解釈して,日本の伝統音楽と同義にとらえている。副題に「雅楽から民謡まで」とあるのはそのような消息を示すものである。

 また,古代から現代にいたるまでのすべての種目の音楽を対象に,その人名,曲名,書名,用語をとり上げており,そうした上から「邦楽百科」と題されるのである。そして,どちらかといえば用語の説明に比重がかかっているので,「事典」ではなく「辞典」とされた。
 さらに,一般の人にも使いやすいようにとの配慮から,小項目,多項目主義が採用されている。

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 さて,その内容の特色のうち,いくつか気がついたものを上げておこう。
「現代邦楽」「雅楽」「能楽」といった総合的な項目も設けられており,適度の分量で要領よく説明されているし,また「型」では「日本芸能における型の意識」「舞楽の型」「歌舞伎の型」と論じられ,「譜」の項では,(1)楽器の譜,(2)声楽の譜,(3)音高・リズムの表現などと,邦楽百科ならではのユニークな項目のたて方がなされている点はみのがせない。

『梁塵秘抄』「楽家録」『博雅笛譜』といった古典的書籍に関する項目とともに,『歌舞伎音楽略史』や『能楽源流考』といった近代の有名な著作も含まれている点が興味深い。
 そして最後に,ほとんどのページに,図か写真かが掲載されており,みて楽しく,わかりやすい。
《ブック》  『邦楽百科辞典―雅楽から民謡まで』
雅楽部報 《昭和60年8月26日 第72号所収》
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