昨年十一月の発行だから,新刊書とは言えないだろうが,発行所が共同通信社で,一般の人の目に入りにくい。そのような理由からこの欄で改めて紹介することにした。

 この本は,FM選書の一つとして,「私のレコードライブラリー」「バロック音楽のたのしみ」とともに企画されたもので,著者は日本雅楽会の会長として,つとに有名な押田良久氏である。

 遠くシルクロードをたどり,海を渡って伝来し,1200年の時の流れを経て現在に生きる雅楽。今,静かで根強い人気を呼んでいる雅楽の不思議な魅力を,その歴史と伝統のなかに探り,身近なものとして理解するためての手引き書。雅楽の年中行事や演奏団体一覧も収録とうたわれている。

 まず,「はじめに―雅楽は身近に」と題して,雅楽にまつわるエピソードの紹介ではじまっている。たとえば,「『千秋楽』は雅楽の曲名」,「でんでん太鼓に笙の笛」「『二の舞を踏む』『二の句がつげない』のように「私たちが語源を知らないで日常生活に使用している言葉にも,雅楽に関係のあるものが以外に多い」ことが示され,読者の関心を喚起している。

 第一章は雅楽の歴史について述べられ,第二章では,雅楽の伝統と題して,「役所と楽人」につづいて「楽器」に関して,十一の項目を設けて各々の楽器が紹介され,「装束と面」「楽典」とつづき,第三章では雅楽の鑑賞として,管絃,舞楽等の演奏形式,楽器の編成,楽譜等について。第四章は,正倉院の楽器として復元,第五章は,古楽器の復元について述べられている。

 最後に,付録として「宮中で行われる雅楽の行事」「神社・寺院などで行われる雅楽の行事」「民間団体の定期公演」「年表」が記されている。天理大学雅楽部の名もみられるが,定期公演の「日時は一定していない」は惜しい。
 内容的には,同氏の『雅楽鑑賞』(文憲堂発行)の普及版と言ってさしつかえないだろう。
図書紹介  押田良久『雅楽への招待』
雅楽部報 《昭和60年7月26日 第71号所収》
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