国立劇場第二十四回雅楽公演  舞楽法会 安養楽土
雅楽部報 《昭和53年11月26日 第8号所収》

 法会において歌舞がなされるようになったのは,聖徳太子の時代である。当時日本に伝わった伎楽が,仏教音楽として接受され,それ以降東大寺大仏の開眼供養会にピークとなる。しかし初期の法会における歌舞は,多分に余興的な趣があり,法会そのものと有機的に結びつくにに至っていない。

 雅楽と法会が密接に結びつくようになるのは,平安時代に入ってからである。有名な『江家次第(ごうけしだい)』と『舞楽要録』に,大法会の次第が誌されている。これがこの時代の大法会の標準型であるといわれている。

 雅楽と法会の結びつきには,一貫した形式がある。その代表的なものが「舞楽四箇法要(ぶがくしかほうよう)」で,四箇法要は,唄(ばい),散華(さんげ),梵音(ぼんおん),錫杖(しゃくじょう)の四種の声明,及びその作法によって構成される法要である。その法要の間に,雅楽(舞楽)がはさまれたものを舞楽四箇法要とよぶ。

 今回,国立劇場で行われた「舞楽法会」も,これに従って構成されている。

「江家次第」によると,法会中に演奏される雅楽(舞楽)は,二つの群に分けられる。一つは法会と有機的に結びついているものであり,今一つは法会終了後,参拝衆の法楽として演奏されるものである。前者には,(乱声),「振鉾」,「獅子」,(十天楽),「菩薩」,「鳥(迦陵頻)」「蝶(胡蝶)」,(溢金楽,ほう(「果」の下に「衣」の字)頭楽,郎君子,慶雲楽,陪臚,蘇莫者,蘇合急,白柱)であり,後者は「安摩」,二ノ舞」「萬歳楽」「散手」「太平楽」,「蘇合香」などである。後のこの前者を「供養舞」あるいは「法会舞」と呼び,後者を「入調(にゅうじょう)」と称した。

 今回の公演では,もちろんこの前者,供養舞の部分にスポットがあてられて,その次第は声明の演奏が延暦寺であるの,同宗で尊重している法華十講に四箇法要を付けた,いわゆる「舞楽四箇法要講経論義」である。以下それを列挙すると,音声(渇<にんべん>頌),乱声(新楽乱声),道行,総礼迦陀(そうらいかだ)(付物),振鉾(三節)―邪気を払い,会場を鎮める。伝供(でんぐ)―「菩薩」「迦陵頻」の舞人が供物を捧げ,舞台上を往還し,堂前で僧侶に渡し,その僧が仏前に供える,十天楽―伝供の時奏される,迦陵頻,胡蝶,唄,散華,対楊(たいよう),壱越調調子,春鴬囀遊声序,表白,仏名,教化,論義,獅子,狛犬,梵音,春鴬囀颯踏,錫杖,春鴬囀入破,回向迦陀(えこうかだ),春鴬囀鳥声,急声,入調である。

 ところで,このような仏教の儀式―法会において,雅楽が音楽としてどのような役割を果たしているのか。

 行道,行列の音楽として,あるいは式衆僧侶の会中における作法動作の伴奏音楽として用いられいる。また,たとえば伝供の音楽としては,主に「十天楽」が用いられるように,ある動作に対して,一定の曲が用いられる場合もあるという。音楽が儀式に参加する者の動作を規制,あるいは逆に,促進させる機能を果たしているのである。

 本教における雅楽の意義,とくに典礼の楽としてのその意義について再考の時期に来ているのではないか。
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