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新作管絃曲と再興舞楽
雅楽部報 《昭和53年10月26日 第7号所収》

 来る十一月十三日,国立劇場小劇場で小野雅楽会の公演が催される。題して「甦える悠久」。

 プログラムは芝祐靖作曲の簫(しょう)と雅楽器のための合奏曲『招韻―いかるがの幻想―』と,東儀和太郎氏によって再興された,放鷹楽(ほうようらく)である。

『招韻』は新作の管絃曲である。作者芝祐靖氏は周知の通り,笛の名手―当雅楽部主催の先日の演奏会でも我々を魅了させたが―雅楽の新曲にも意欲的に取り組まれている。最近作の「古代歌謡による天地相聞」などはことに新しい。この曲は「白鳳時代に奏された楽器の余韻を,斑鳩の里に立って,その風の中に聴き,想像のうちに展開する当時の情景を幻想曲風に書いたもの」である。

 楽器の編成は三管三鼓二絃の雅楽器に,幻の管楽器「簫(しょう)」と,「竿」(う・大型の笙)その他尺八,十七絃,笏拍子,鑿(きん),鈴,銅拍子。これらと組み合わせ二十人で演奏される。
 放鷹楽は「信西古楽図」にその舞姿が描かれているが,現在舞も曲も見聞きできなくなった。この曲の再興にあたった東儀氏は今までも「河南甫」,「蘇合香」,「宴曲」などの廃絶曲の復元をされている。

「放鷹楽」とは字の如く鷹を飛ばして小鳥を追わせる,いわゆる鷹狩り(放鷹)の音楽である。この舞楽の再興にあたって次のようなストーリーが想定されている。「昔衛士たちは鷹を愛好し,鷹の卵をも珍重していた。不図した隙に盗人は,卵を持ち去ったが,母鷹は懸命に盗人と闘って,わが卵を奪い還すことを得た。やがてその卵から生まれた若鷹達は,鷹司達の良友となり野狩りの空を自由に飛翔した。」

 曲は太食調,序,破,急からなっており「衛士」と題された序は調子に始まり,一人づつ四人の舞人(衛士)が黄金色の卵をもって出,出手を舞う。そして序拍子の当曲がはじまり,途中で延八拍子にかわり,舞人退場で奏楽を止める。(序の舞は薗広茂氏の再興による)この部分は鷹の卵が盗人に持ち去られる場面である。

 破は「母鷹と盗人」で,まず小亂聲,次に有拍子の亂聲,笛がその途中で時に陵王亂聲を追吹きする。舞の方は,盗人と母鷹の闘いの姿を表現したものである。

 急は「鷹司」で太食調の音取,次に当曲,八多良四拍子で,鷹司が登場。曲の途中から母鷹も参加して共に喜遊して舞い,舞人が退場したところで最後に管方が太食調吹止句を奏して曲が終る。

 舞楽が復元,再興される時,必ずといっていい位,舞にストーリーをもたせ,それを表現するという手法がとられる。現存の舞楽においては,このようなストーリーは全く見聞きできない。
 その理由は……? 
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